ゆったりフォト紀行 

淡雪の北京 胡同(フートン)


オリンピックまでに撤去されるという胡同
その美しい街並が
     うっすらと雪化粧をして迎えてくれた     

           写真・文 北奥耕一郎        

 「悪天候のため着陸できない場合は引き返すことがあります。」
出国手続きを済ませ、搭乗ゲートでツアー参加者の皆さんと北京での予定を話し合っていたときにアナウンスが流れた。
エッ、引き返す?
これは大変だ。そんなことになったら予定がすべて狂ってしまう。状況は現地の上空へ着かないとわからないとのこと。不安を抱えながら機は飛び立った。

雪だ!
北京の上空までやってきて窓から下を見ると一面の銀世界だった。北京の冬は厳しい寒さだが雪はめったに降らないと聞いていただけに全員大喜びである。悪天候というのは降雪のことだったらしい。雪はもう止んでおり無事に北京首都国際空港に着陸。

市街北部の鼓楼の周辺には北京の伝統的家屋である「四合院」が建ち並び、その間を路地(胡同)が通り、古きよき時代を思わせる街並が残っている。この胡同は今もなお北京の人々の生活空間として受け継がれ、築150年以上の四合院も珍しくないという。


そのような歴史的空間である胡同を訪れ、庶民の生活をかいま見ることのできる「胡同ツアー」が人気を集めている。ところが北京市は2008年のオリンピックまでに胡同を撤去することを決め、一部で工事に着手した。これは京都の伝統家屋が撤去されるようなもので、非常に残念なことだ。少しでも残っている間に撮影しておこうというのが今回の目的のひとつだった。


高いところから俯瞰すれば街並の美しさがわかるだろうと急な階段を登って鼓楼の最上階へたどり着く。四合院の屋根の重なりが美しい。うっすらと雪化粧をしているのでさらに美しく見える。なんとラッキーな撮影旅行なのだろうと感謝すると同時に、この街並を撤去するとは何事かと改めて憤りを覚えた。


道路に出ると雪でぬれた路面を危なっかしく自転車を押しながらやってくる老人と出合った。飲茶の店ではセイロから湯気が元気よく出ている。いい匂いだ。今はまだ寒いがやがて来る春を北京の人々は心待ちにしているのだろう。

三日間の短い滞在だったが帰国した我々に明るいニュースが届いた。北京市が胡同の保存を決定したというのだ。よかった、これでまた美しい街並を見ることができる。でも保存するのは「一部」だとのこと。この街並を見ておきたいと思う方は少しでも早く行かれた方がよろしいですぞ。

      
         ( 参考文献「地球の歩き方」 )

情報誌フルフル第3号より